まさか、こいつが少佐にまで上がってるなんてよ…。
あの、泣き虫だったヒューバートがねえ…






「…で…だから」





ちょっとからかっただけでピーピー泣いてたのによお…
口調まで変わってるし…





「…ます?……ダ」






ていうか、こいつの兄貴って…






「スパーダ!!!!!」



「うわあ!!なんだよ!!」


「ぐえ」














急に目の前に現れたヒューバートの顔に驚いた俺は思わず隣にいたに抱きついてしまった。
わりい、。首しまったか?





「貴方という人は…。これから未開の地へ行くのですからもっと緊張感を持って行動してください!!!」
「へーへー」


口煩いというか、細かいこと気にしいなとこは変わってねーや。







「ゲホゲホ。スパーダとヒューバートは知り合いなの?」

「あん?ああ、こいつがハナタレの頃からな」
「誰がハナタレですか!」






俺の家、ベルフォルマの家系は代々このヒューバートの家であるオズウェル家と少々交流がある。
とはいえ、親同士が何やら取引をしているようだが俺達はそんなこと知らず、ただ子供は子供と遊んでいろと言われたので言うとおりにしていただけだ。

ヒューバートはオズウェル家の養子だ。
オズウェルは直系の子供が出来ず、大陸を挟んで遠縁関係にあるラント家からヒューバートを養子として譲り受けたと言うわけだ。
たしか…兄貴がいたって言ってたっけ?







「オレは。よろしくね、ヒューバート」
「言っておきますが…任務の為に同行するだけです。僕の足を引っ張らないように」




友好的なの態度とは裏腹なヒューバートの物言いにカチンとした。
昔はまだ可愛げがあったが…どうやら俺様がいない間に捻くれちまったようだな…。




「どこの誰がそんな偉そうな口利いてんだ?あぁ?確かお前こっちに来たときおね
「わーーーーーーーーヽ(´Д`;)ノ」



へっ。昔馴染なめんなよ。






「ねえねえガイ」
「ん?どうした?
「あの二人って仲良いね」
「んー…にはそう見えるんだな」
「?」










イクシフォスラーで飛ばすこと数十分、大陸の堺にそびえる広い森が見えてきた。
木々が多いため、少し離れた平地に船を降ろし徒歩で森へ向かう。



鬱蒼と茂る森は、まるで人の侵入を拒むかのように道なき道が続く。
慣れない獣道に苦戦しながらも俺達は奥へと進んでいった。





「結構奥まで来たけど…特に変わった様子は無いなあ」


ガイの言うとおり、行けども行けども変わった様子は見られなかった。
俺達の中で体調不良を訴えた奴もいないし、女の霊も出てこない。



「そろそろ国境ですね…。どうやら異変はリヴェイル大陸側で起きているんでしょう。では探索を終了―――」

「ヒューバート!!」








切り上げようとしたヒューバートの名前を大きく呼んだのは、俺でも、ガイでも、でも、勿論リフィルでもなかった。








「……に、兄さん!」





クリミア大陸側から現れたその人物は、エヴァのホーリークレスト軍の象徴であるエンブレムをつけていた。






「やっぱりお前が任務についていたんだな。会えて良かった」
「…なるほど、だから僕がこの任務に指名されたということですか」

「皆さん、初めまして。ホーリークレスト軍第三小隊隊長を務めます、アスベル・ラントです」
「ちなみに僕の実兄です。兄さん、そちらでは一体どのような情報が?」
「こっちでは、森の中で女性を見かけたという目撃情報と行商人が体調不良を訴えているというものかな」
「こちらと同じですね…。しかしクリミア大陸側では何も起きませんでした。そちらでは?」
「こっちも何も発見出来ていない。だからそちら側だと思っていたんだが…」





「皆!!あれ!!」



の言葉に全員が振り向く。
そこには髪の長い女性のようなシルエット。しかし、木々の間をすり抜け、姿は見えなくなってしまった。





「…っあれは」
「アスベル、そちらの兵士という可能性は?」
「ないな。今回は俺の単独任務だ」


俺達は影が消えた方向を睨む。
霊がいるとは思っちゃいねえが、もしかしたら魔物かもしれない。



「テネブラエ、あれはもしかして…」
「ええ。もしかすると」


だが、だけは違った。
テネブラエを呼び出し、何やら話している。
そして、表情を和らげた。






「――皆、あれは霊なんかじゃないよ」


?貴方はあれの正体がわかったの?」
「うん。ねえアスベル、ヒューバート。此処には遺跡とかモニュメントとかそう言った古い建築物ってあるかな?」

「……確か、そのようなものがあったとは聞いている」
「僕の方にも古代文明の名残のようなものがいくつかあったと」



2人の言葉にリフィルの目が光る。



「なんだと!!そのような物があるなら早く調べねば!!早く案内しろ!!!」

リフィルの変貌振りに見慣れていない二人は驚き、首を縦に振るしか出来なかった。
あの変貌さえなけりゃあ美人なのに…残念すぎる。



。と言う事は…」
「もしかして、あれか?」

「うん。間違いないと思う。―――マナを感じた」















シュ・リンカ樹林の最奥、そこには滅びた文明の跡地があった。
崩れた壁、倒れた柱、蔓に巻かれた石碑。





「おおおお!!!このような遺跡がまだ残されていたとは…!いや、しかし………これは」




興奮していたリフィルだったが、石碑の文字を読み解く内に冷静さを取り戻したのか声が冷静になっていった。
同じものをここ最近よく見ていたからだ。




、此処がそうなのね?」
「うん。ハロルドのくれた地図には印が無かったけど。此処からもマナを感じる」



「一体、なんの話をしてるんですか?」
、俺達にも解る様に説明してくれないか?」




「此処に、精霊がいるんだよ。正確には精霊の欠片とも言うべき石版か、奉っている祭壇のどちらかだけど」

「精霊…っですって…?」
「そうか、ジェイド大佐が言っていたのはこの事だったのか…」



辺りを調べてみると、石碑の下にうっすらだが引き摺った跡があった。
協力して石碑を動かしてみると地下へと続く階段が現れた。



「こんなものがあったなんて…」

「どうやら手ぶらで帰らなくても済みそうだぜ」


は階段を見る。
石版か祭壇かわからない、それは二分の一で戦闘を意味する。

石版だとしたら、それを守る者。つまりはディセンダー達がいる。
祭壇ならば、石版を持っていない今は何もする事が出来ない。




ふと見れば、アイツはまた暗い顔をしていた。
大方、俺達を巻き込むとかなんとか考えてやがんだろうな。






「何、暗い顔してんだ」
、俺達は大丈夫だ。仲間だろ?」



「?!」

俺はの頭を軽く叩く。
ガイがの肩に手を置く。






「大丈夫、石版の試練だったとしても私達は戦えるわ。貴方一人に背負わせたりしない」


リフィルの笑みにはつられて、ようやく笑った。




「…うん。…行こう、皆」






大丈夫、お前は一人じゃない